2009年10月15日木曜日

家出法改正に伴う議論の高まり影響?

 ■推進月間、関係者に危機感

 脳死臓器移植の実施が2月を最後にパッタリと途絶えている。ゼロの更新はすでに8カ月を超えた。7月に国会で臓器移植法が改正されるにあたり、脳死に関 する議論が高まりを見せたことが、かえって移植実施を慎重にさせているとみられている。おりしも10月は臓器移植普及推進月間。移植への理解を求める関係 者らの努力が続く。


 最後となる脳死移植が行われたのは、2月8日に名古屋市の病院で行われた事例。空白期間は8カ月を超えた。国内で初の脳死臓器移植が行われたのは平成 11年。以後11年間で81例の移植が行われてきた。脳死移植が1例も行われなかった最長の空白期間は、14年12月30日から15年9月12日までの9 カ月。今回はそれに迫る勢いで空白期間が続いている。

 脳死移植のペースにはもともと緩急が繰り返されてきた経緯がある。空白期間が始まる前の、昨年から今年2月までは、ほぼ月に1件以上のペースで実施され ており、関係者らの間からは脳死移植の定着を指摘する声も出ていた。今年1月には4件もの脳死移植が行われている。それが一転しての長期空白。関係者の間 で指摘されているのが、7月の臓器移植法改正をめぐる議論の影響だ。脳死を人の死とする法案から、それに慎重な法案までが出され、意見が割れた。

 移植のコーディネートを担う日本臓器移植ネットワークでは「脳死に対する誤解も含めて様々な議論があることが明らかになったことで、家族や病院などに、 移植に対して慎重な雰囲気を作り出しているのかもしれない」とみる。移植の意思を示す移植カードは累計で1億2400万枚が配られており、実際に日常的に カードを所持するなど意思表示をしている人は1千万人程度に達しているとみられている。

 臓器移植者やその家族らで作る特定非営利活動法人(NPO法人)「日本移植者協議会」の大久保通方理事長は、「普通では考えられない事態」と空白の長期 化に危機感を募らせる。大久保理事長は「臓器提供の意思を示したカードを持っていた脳死者もいたはず。法改正にあたり『いまは積極的にかかわるべきではな い』という考えが広がったのではないか」と懸念する。

 一方、脳死移植に慎重な立場をとる「『脳死』・臓器移植を許さない市民の会」の清水昭美代表は「審議不十分のまま採決された改正法への不信感が国民の間に広がり、人々が慎重になっているのではないか。もう一度議論をする機会だと思う」と話している。

 空白期間の裏で、国内では多くの人が貴重な善意にもとづく臓器提供を待っている事実がある。10月は移植医療に対する理解を呼びかける「移植推進月 間」。移植ネットワークでは「移植について関心を持ってもらうとともに、家族などと移植について語り合ってほしい」と、ミニコンサートなど各地で啓発活動 を行うことにしている。